2025.12.26
決算書上は「利益」が出ているのに、資金(現金預金残高)は心もとない。そんな経験はないでしょうか。「どうして資金がないの?」という問いを手がかりに、会計の仕組みと、利益と資金のすれ違いが生まれる理由を探ります。
今期は売上も順調に伸び、利益も前年より増えているにもかかわらず、決算書を見ると現金預金の残高は減少している。まるで、帳簿の中で資金が消えてしまったかのような「不可解なミステリー」です。
決算書には、確かに当期利益が存在しています。ところが、あるはずの資金が見当たらない。誰が、いつ、どこへ、資金を持ち去ったのかー。これは、経営の現場でしばしば起こる現象。その実は、会計の仕組みが生み出すトリックのようなものです。
利益と資金は、同じように見えて、まったく異なるルールと流れの中で動いています。その違いを理解することが、「消えた資金」の謎を解く鍵となります。例えば、掛取引の場合、売上が立った時点で帳簿には収益が計上されますが、実際に資金が増えるのは、売掛金が回収された後です。同様に、仕入が計上されても買掛金の支払いが済むまでは資金は減りません。会計上の収益費用と、実際の入出金のタイミングのズレこそが、利益と資金が一致しない理由なのです。
決算書を見ると、当期利益500万円に対して、現金預金は前期末より300万円減少しています。決算書を紐解きながら、「消「えた資金」の足あとを追跡してみましょう。
売掛金残高が前期より200万円増加しています。これは未回収となっている売掛金の分だけ資金が増加していないことを意味します。
前期より在庫(棚卸資産)が100万円増加しています。在庫は、販売して売掛代金として回収されるまでは資金とはなりません。そのため在庫の増加分だけ資金の減少要因となります。
期中に、借入金を返済したことで、借入金残高が300万円減少しました。これは借入金の返済のために300万円の現金預金が使われたことを意味します。会計上、借入金の返済は費用にならないため、当期利益には影響しないものの現金預金を減少させています。
期中に、新たに400万円の設備投資を行いました。設備投資を現金預金で行った場合、その分、現金預金が減少します。
損益計算書に減価償却費200万円が計上されています。減価償却費は、現金預金の流出を伴わない費用のため、利益と資金のズレを生み出す要因になります。
当期に行った設備投資により固定資産は400万円増加しましたが、減価償却費の計上により、貸借対照表上、固定資産の増加は200万円になっています。
「消えた資金」の謎を追って決算書を読み解いた結果、当期利益500万円は、①売掛金残高の増加、②在庫の増加、③借入金残高の減少、④設備投資に使われ、さらに⑤減価償却費の計上を加味しても、資金は減少してしまいました。ただし、実はこれらは、いずれも会計のルールに従って正しく処理されたものにすぎません。
では、あるはずの資金が消えたのはどうしてなのか?それは、発生主義など会計の仕組みへのあいまいな理解から生まれた「利益=資金」という誤解です。帳簿上の利益が、そこのまま現金預金として存在するはずとの思い込みこそが、「利益はあるのに、どうして資金がない?」事件の真相なのです。
利益を上げることはもちろん重要ですが、それだけでは十分ではありません。資金の流れを正しく読み解き、資金繰りの改善に取り組むことが、健全な経営への第一歩です。