日々の売上や資金繰りに追われると、貸借対照表の「純資産の部」はつい後回しになりがちです。けれどここには、創業から積み上げてきた会社の“底力”がそのまま表れます。
「資本金」「利益剰余金」「自己資本比率」の3点をやさしく整理。景気変動や金利上昇があってもしなやかに耐える財務体質を、今日からつくるヒントをお届けします。
「純資産の部」の数字が表しているのは「創業から今までの、会社のあゆみ」
貸借対照表(B/S)の純資産の部=自己資本は、返済不要の資金で、資本金と利益剰余金が主な中身です。ここが厚いほど、景気・金利・不測の事態でも意思決定の自由度が落ちません。
まずは四半期ごとに、次の3点を定点観測しましょう。
- 自己資本の総額(前期比/3年トレンド)
- 内訳(資本金/利益剰余金/資本剰余金)
- 自己資本比率=自己資本÷総資本×100
資本金 ― “定義の説明”は卒業。資本政策としてどう設計するか
自己資本比率に効く打ち手は、次の順序で検討するのが実務的です。
- 内部留保を増やす(最優先)
粗利率の改善と固定費設計の見直しで継続黒字を平準化。配当は成長投資と安全余裕の確保後に。
- バランスシートの軽量化
滞留在庫・過大な売掛・遊休資産を圧縮し、総資産分母を下げる(比率が上がる)。
- 資本注入・資本性調達
・第三者割当・株主割当増資で払込資本を厚くする(信用力の底上げ)。
・役員借入金が厚い会社は、DES(Debt Equity Swap)で資本転換を検討(要:税務・評価整理)。
・資本性借入や劣後ローンは会計・格付け上、実質自己資本とみなされるケースがあり、比率維持と資金調達の両立に有効(金融機関の取り扱い要件に依存)。
- 資本剰余金の使い方
「その他資本剰余金」の取り崩しによる繰越利益の補填など、純資産内の再配置で債務超過の回避・早期解消を図る(会社法・税務の制約に留意)。
利益剰余金 ― “平均年間利益”で会社の地力を可視化
利益剰余金は税引後利益の累積。まずは平均年間利益を算出して「平時の実力」を掴みます。
- 例:利益剰余金6,000万円 ÷ 創業20期=平均300万円/年
- 今年の税引後が200万円なら、平均を下回った要因を分解(粗利?固定費?一過性?)
欠損(マイナス)が続けば、いずれ債務超過。新規借入や条件変更が難しくなる前に、次の3点を数字で習慣化します。
- 粗利率・固定費率・営業CFの3枚スライド(前年・3年平均・今期見込)
- 在庫回転/回収サイト(資金繰り→自己資本比率に直結)
- 一過性損益の管理(投資・減損・税効果のタイミング)
「自己資本比率」は「財務の健全性」と「経営の自由度」をはかるバロメーター!
高いほど借入依存が低く、外部環境に左右されにくい。意思決定も速く、投資余力も確保できます。
【一般的な目安】
- 50%以上 … 非常に安定
- 30%以上 … おおむね健全
- 10%未満 … 改善が急務
立川エリアでも、再開発や地価の影響で不動産の含み益を頼みにする経営を見聞きします。けれど、それは売却して初めて現金化されるもの。含み益を前提に借入を重ねると、元本返済の目途が立たなくなるリスクがあります。“含み益頼み”からの脱却を、早い段階で。
比率を高める実務3ステップ
- 黒字の平準化:粗利設計と固定費の見直しで“毎期黒”を当たり前に
- 資産のスリム化:遊休資産の棚卸し・売却可能性を検討
- 借入の計画管理:返済スケジュールを資金繰り表に織り込み、リファイナンスも視野に
自己資本は会社の自由度そのもの。今日の小さな黒字の積み上げが、明日の「選べる経営」をつくります。期末だけでなく、期中から純資産の部を見に行く。それが体質改善の第一歩です。