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「106万円の壁」撤廃へ―中小企業に影響大の年金制度改正

2025.08.29

「働きすぎると社会保険料が増えて手取りが減るから、あえてシフトを抑えている」
そんな“就業調整”のきっかけとなってきたのが、いわゆる年収106万円の壁です。

この構造的な課題を是正するため、2025年通常国会で成立した年金制度改正法では、社会保険の適用範囲を大きく広げる改正が盛り込まれました。
単なる制度の見直しにとどまらず、中小企業にとっては「人件費の増加」「労務管理の複雑化」という現実的な負担を意味します。だからこそ、経営者は早い段階でポイントを理解し、備えておくことが欠かせません。

改正の背景 ― なぜ今「壁」の撤廃なのか

最低賃金の上昇により、週20時間程度働けばほとんどの人が自動的に年収106万円を超える状況になってきました。
その結果、働き手が「これ以上働くと社会保険加入になり、手取りが減る」と就業調整をせざるを得なくなり、労働力不足が一層深刻化するという悪循環を招いていたのです。

国はこれを打破するために、賃金要件そのものを撤廃。社会全体で就労を促進し、持続可能な社会保障制度を確立しようという狙いがあります。

改正のポイントを整理すると

  1. 賃金要件(106万円の壁)の撤廃
    従来の加入要件は「週20時間以上勤務」「月額賃金8.8万円以上」「学生でないこと」の3つでしたが、このうち賃金要件が削除されます。
    週20時間以上働けば、雇用形態に関わらず原則社会保険に加入する流れに変わります。施行は公布から3年以内に決定されます。
  2. 企業規模要件の撤廃
    これまでは従業員51人以上の企業が対象でしたが、今後は段階的に基準が拡大され、最終的に規模に関係なく適用対象に。
    小規模事業所でも、パート・アルバイトの社会保険加入が避けられなくなります。
  3. 個人事業所の業種制限撤廃
    法人企業は従業員数に関係なく社会保険の適用事業所ですが、個人事業所には業種制限がありました。
    これも2029年10月から撤廃され、常時5人以上雇用するすべての事業所が対象になります。

経営に及ぶ影響 ― 中小企業が直面する課題

今回の改正により、企業側の社会保険料負担は増加が避けられません。
特にパートやアルバイトを多く抱える小売・飲食・サービス業では、以下のようなリスクが想定されます。

  • 従業員が「加入を避けるために労働時間を減らす」=シフト調整による人手不足
  • 保険料負担の増加による利益圧迫
  • 労務管理が複雑化し、管理コストが増大

政府は就業調整を減らすための被保険者支援策も設けていますが、それだけで十分とは言えません。経営者自身が自社の影響を試算し、資金繰りや人材戦略を見直すことが不可欠です。

負担増に備える ― 利用できる支援と対策

制度改正に伴う追加コストを吸収するには、金融・支援策の活用も視野に入れましょう。

信用金庫や地域銀行 人件費増加や保険料負担を見越した短期運転資金・長期借入の相談に応じています。
制度融資 自治体や都道府県が用意する制度融資では、利子補給や保証料補助があり、資金繰り負担を軽減できます。
信用保証協会 公的保証を付けて金融機関からの借入をスムーズに。企業規模に関係なく利用できる仕組みです。
商工会議所の相談窓口 マル経融資など小規模企業でも使いやすい制度を紹介してくれ、経営改善計画づくりの伴走支援も受けられます。

制度改正は避けられません。
しかし「早めに理解し、資金・人材の備えを講じる」ことができれば、経営の安定性を高め、逆に人材確保のチャンスに変えることも可能です。
ご関心があれば、ぜひ当事務所までご相談ください。

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