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借入金のきほんを見直そう ― 経営判断を支える土台として

2025.08.18

日々の経理業務は、健全な経営を支える大切な土台です。正しい経理に基づく会計データがあって初めて、経営者は的確な判断を下すことができます。特に「借入金」は、資金繰りと経営の安定性を大きく左右する要素。

借入金は「短期」と「長期」で区分する

借入金は会計ルール(企業会計原則、中小会計要領等)に従い、「短期借入金(流動負債)」と「長期借入金(固定負債)」に区分します。

  • 短期借入金
    返済期限が1年以内のもの。日常の運転資金(仕入・人件費・家賃など)に充てられるケースが多く、手形借入や当座借越等も該当します。
  • 長期借入金
    返済期限が1年を超えるもの。建物や機械の購入、新技術導入といった設備投資資金や一定期間の運転資金をまかなう際に利用されます。

さらに長期借入金のうち「1年以内に返済が到来する部分」は「1年以内返済長期借入金」として短期に振り替える必要があります。

役員からの借入金は別建てで管理を

役員からの借入金(役員借入金)は、金融機関からの借入金と明確に区別して管理しましょう。

  • 無利息・返済予定なしの場合は、貸借対照表上「自己資本」とみなされることがあります。
  • 利息や返済がある場合は、契約書(金銭消費貸借契約書)を作成し、金額・利息・返済日・期限を明示することが不可欠です。
  • 税務調査では「そのお金の出所」が必ず確認されます。現金でのやりとりは避け、役員の口座から振込し、明細を残しておくことが望ましいでしょう。

役員借入金は「ある時払いで催促なし」となりやすく、気づけば多額になっていることも。相続発生時には相続財産に含まれるため、計画的な返済や債務免除の検討が重要です。

借入金の管理は「地域の金融環境」とあわせて考える

借入金の整理を行う際には、社内の管理体制だけでなく、身近に利用できる金融支援策も視野に入れておくと安心です。

借入金の管理とあわせて考えたい「金融支援策」
支援の種類 内容・特徴 ポイント
信用金庫・地方銀行 中小企業や個人事業主に親身な融資サポート。創業期の返済負担を軽減する特別融資や、資金繰りに配慮したローン商品あり。 地域密着で相談しやすい。創業期・成長期に手厚い。
自治体・都道府県の制度融資 金利負担の軽減や保証料補助等を受けられる。金融機関・保証協会と連携して実行。 公的制度の活用で資金調達コストを抑制。
信用保証協会 融資時の公的保証人として機能。全国的に利用が広く、中小企業の資金調達を下支え。 保証付き融資は事業規模を問わず利用しやすい。
商工会議所 経営相談窓口で資金繰り相談が可能。小規模事業者向け「マル経融資」など低利融資の紹介も。 無担保・無保証人・低利が実現するケースも。

こうした選択肢をうまく組み合わせることで、借入金を単なる「負債」ではなく、成長を支える資金調達の手段として位置づけることができます。

借入金を区分すると見えてくる ― 「資金繰りの安定度」

借入金の返済に充てられる原資は、大まかにいえば「当期利益+減価償却費」です。
この額が「1年以内返済長期借入金」を下回る状態が続くと、資金繰りは次第に悪化し、追加融資などの対策が必要になります。

金融機関からの借入総額を「当期利益+減価償却費」で割れば、大まかな債務償還年数が算出できます。これは「現在の利益を出す力から見て、完済までにどの程度年数が必要か」を示す指標です。
もしこの年数が借入の約定年数を超えているなら、経営改善に早急に着手すべきサインといえます。

借入金を正しく区分することは、単に会計処理のためだけでなく、「資金繰りの安定度」を把握し、経営計画を立てるベースになります。

借入後は「返済管理」と「金融機関との関係」がカギ

借入れを行った後は、返済計画を守るだけでなく、金融機関との関係を良好に保つことが重要です。

  1. 借入情報を整理する
    金融機関ごとに借入目的・金額・期間・返済期限・担保の有無などを「借入金台帳」「借入金一覧表」で管理しておきましょう。返済スケジュールや元利金の見通しを把握でき、借り換えや追加融資の判断にも役立ちます。
  2. 財務情報を定期的に開示する
    融資を受けた金融機関には、決算書の提出だけでなく、月次や四半期の試算表も開示するのが望ましいでしょう。最近では電子サービス(例:TKCモニタリング情報サービス)を通じて共有する方法も普及しています。
    特に信用金庫や地域銀行は、融資先の最新業績を踏まえ、経営者と定期的な情報交換をしながらサポートする姿勢を持っています。透明性のあるコミュニケーションが、次の融資や制度利用の安心材料になります。

また、返済計画の実行と並行して、利用できる支援策も確認しておきたいところです。

  • 地元の信用金庫や地方銀行では、創業期や資金繰りに配慮したローンが整備されています。
  • 自治体や都の制度融資を使えば、利子補給や保証料補助によって実質負担を軽減できます。
  • 信用保証協会の保証付き融資は、中小企業の多くが利用する仕組みで、金融機関との取引を後押ししてくれます。
  • 商工会議所を通じたマル経融資は、無担保・無保証人で利用できる代表的な資金調達手段です。

こうした選択肢を知っておけば、借入金を「返済の負担」ではなく、成長を支えるための戦略的な資金として位置づけやすくなります。

check! 自社の借入金を確認してみよう

□ 借入金を「短期」と「長期」に正しく区分しているか。
□ 長期借入金のうち、1年以内に返済する分を「1年以内返済長期借入金」として整理しているか。
□ 借入に関して以下の情報を把握・管理できているか。
 ① 担保の有無と担保資産の内容
 ② 信用保証協会付きかどうか、その保証料
 ③ 財務制限条項(コベナンツ)の有無と内容
 ④ 連帯保証人の状況
□ 役員借入金の「出所」を説明できるようにしているか。
□ 役員借入金について契約書を作成し、記載内容に従って運用しているか。

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